ミッション・ビジョン・バリューの分かりづらさの原因と対処法

経営の話

企業の理念や目標を考えるうえで便利な、ミッション・ビジョン・バリュー(以下MVV)という言葉。
昨今は大企業各社が策定するなど、広がりを見せています。


ですが、このページをご覧のあなたは
「色々調べてみたけれど結局MVVが何かわからない」
「事例を見ても、自社・自分で考えるのは難しい…」

といった悩みをお抱えなのではないでしょうか。


本エントリでは、現役の経営コンサルである筆者が
MVVに関するドラッカーの原著をもとにわかりづらさの原因を紐解き、さらに対処法として、実際に作る際のポイント・作成事例についてもご紹介します。

ぜひお読みになり、
組織や個人の理念・目標設定などにご活用ください。

ミッション・ビジョン・バリューの分かりづらさの原因

結論から申し上げると、
ドラッカーが、MVVを紹介した本で
 その意味をちゃんと定義しなかったため、
 他の人が各々勝手に定義しているから
です。

ドラッカーは、MVVについて語った本で意味の定義をしなかった

ミッション・ビジョン・バリューの3つを並べて考えることを広めたのは、経営学者ピーター・F・ドラッカーの著書「ネクスト・ソサエティ」(2002)です。


実際にミッション・ビジョン・バリューを3つ並べて書いてある箇所を見てみましょう。

 ネクスト・ソサエティにおける企業とその他の組織の最大の課題は、社会的な正統性の確立である。すなわち、価値、使命、ビジョンの確立である。

ピーター・F・ドラッカー著「ネクスト・ソサエティ」
みやけん
みやけん

「社会的な正統性」=「価値、使命、ビジョン」ということですね。


この箇所だけではMVVがそれぞれどういう意味かわからないので、kindleの検索機能で他の記載箇所を探しましょう。すると…

まず価値・使命・ビジョンが並んで登場する場所はもうありません。
価値・使命・ビジョンが単体で書かれている場所にも、やはり定義説明はありません。


つまりドラッカーは、「社会的な正統性の確立が大事」ということと「社会的な正統性とは、価値(バリュー)・使命(ミッション)・ビジョンの3つ」ということは述べてはいるのですが、

価値・使命・ビジョンがそれぞれ何かは説明しなかったのです。

ネットにある定義は「書いた人の私見」だから分かりづらい

「それじゃあ、ググるとすぐに出てくるMVVそれぞれの定義って何なの?」という疑問をお持ちになる方もあると思います。

ずばり、書いた人の私見です。

それぞれが自分の正しいと思う(時に独自に考えた)定義を書いているので、複数の情報ソースを探せば探すほど、統一的な答えがわからなくなるのです。

みやけん
みやけん

統一的な答え(定義)が存在しないので、当然そうなってしまいますね…。

しかもその情報の中には、MVVがさもドラッカー自身により「ネクスト・ソサエティ」で定義されたかのように記載しているものも多いので、注意が必要です。


では、ドラッカー自身が自著で提案こそしたけれど定義されていないMVVを、我々はどのように使えばよいのでしょうか。

MVVの分かりづらさへの対処法と作成事例

結論から申し上げると、ミッション・ビジョン・バリューを作る・使う際に自分で定義と内容を両方作ればよいのです。


…作ってしまえばよいのです、で終わってしまうと投げ出した感があるので、いくつか参考にできる定義の例と、作成事例をご紹介します!

例1|グラハム・ケニー氏の定義

まずは、経営学教授のグラハム・ケニー(Graham Kenny)氏の定義を見てみましょう。
これは、2014年にハーバード・ビジネス・レビューという論文集に寄稿したものです。

【グラハム・ケニー氏のMVVの定義】
  ミッション:組織が現在・将来も携わるべき(または忌避すべき)責務。
  ビジョン :組織が「何年か後にこうありたい」という姿。
  バリュー :望ましい文化を表し、組織の行動指針として機能するもの。

まとめると、3つの言葉の差を生んでいる最大の要素は「時間軸」になりますね。

ミッションは「今も将来もずっと」、ビジョンは「数年後のある時点」、そしてバリューは「現在の一点」という形で区別されています。

例2|山下淳一郎氏の定義

次に、ドラッカー理論専門のコンサルファームを経営する山下淳一郎の定義を見てみます。
これは、氏の著書「ドラッカー5つの質問」に記載されているものです。

【山下洵一郎氏のMVVの定義】
  ミッション:「わが社が社会で実現したいこと」を言い表したもの。
  ビジョン :「わが社のミッションが実現した時の状態」を言い表したもの。
  バリュー :(言及なし)

バリューへの言及はありませんが、ミッションとビジョンの差を生む最大の要素は「行動か結果か」ということのようです。

ミッションは「行動」、ビジョンは「結果」という形で区別されています。

例3|キリンホールディングスの定義

最後に、キリンホールディングスさんの定義を見てみましょう。
キリンホールディングスさんの「企業方針」ページに記載されているものです。

【キリンホールディングスさんのMVVの定義】
  ミッション:社会における永続的、長期的なキリンの存在意義。
  ビジョン :2027年までに達成したいこと。
  バリュー :キリングループの一員として大切にする考え方、気持ち。

定義としては、グラハム・ケニー氏のものととても近いですね。
平易な言葉なので、参考にしやすさとしてはこちらが勝るかもしれません。


さらに、キリンホールディングスさんはMVVのそれぞれに何を設定しているか、という事例を見てみましょう。

【キリンホールディングスさんのMVVの内容】
  ミッション:キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、心豊かな社会の実現に貢献します
  ビジョン :食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業になる
  バリュー :熱意・誠意・多様性 〈Passion. Integrity. Diversity.〉

定義とセットで読むことができるので、非常にわかりやすいですね。

補足|ドラッカー自身も晩年の著書で意味定義した(が、後の祭り)

補足として、ドラッカー自身が晩年の書籍で記載したMVVの定義を見てみましょう。

これは、「The Five Most Important Questions」(2008)に記載されているものです。

【ドラッカーのMVVの内容】
  ミッション:組織の行動・存在理由、目的。何によって記憶されたいか。
  ビジョン :組織の望ましい将来の描写。
  バリュー :(言及なし)

みやけん
みやけん

原理原則を大切にされる方は、この定義を踏襲すると良いと思います!


ただ、この定義はドラッカーが「ハイ・ソサエティ」でMVVに言及してから6年の歳月が経過してから作成されたものだというのが少し問題です。

その6年の間に、様々な企業が自身で考えた定義でMVVを作成し、またその作成されたMVVを見て違う企業がMVVを作成し…という形で、MVV自体の定義が実質的に構築され、既に変遷を遂げています。

様々な定義が生まれている現状、あまりこのドラッカーの定義に拘る意味は無いでしょう。
辛辣な言葉で言えば、完全に後の祭りと言えます。

おわりに|よいMVVを作り、社会的な正統性を確認しましょう

以上、MVVの分かりづらさの原因と対処法をご紹介しました。

分かりづらさの原因は
ドラッカーが、MVVについての本でその意味をちゃんと定義しなかったため、他の人が各々勝手に定義しているから」ということでした。

その分かりづらさへの対処法としては、「自分で定義と内容を両方作ればよい」ということでした。


グラハム・ケニー氏、山下淳一郎氏、キリンホールディングスさん、そしてドラッカー自身の定義を参考にしつつ、ぜひ効果的なMVVを作成してください。

それではまたー!

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